水と食肉の問題

水の日なので、水資源に関することをば。

 

私が住んでいる地域では水不足を普段の生活で意識することがあまりないが、世界を見ればもうすでに水資源の格差はそこらじゅうにある。

 

私は、地球環境に関する授業を受けて、水不足の問題と、私たちの食と、そして今後増えるかもしれない水資源を巡る争いをしかと受け止めなければいけないとようやく思うようになった。

 

 

食べることが好きだ。

一方で、7年前からずっと、食べることに困難さを感じてしまう病気を抱えている。それからずっと、食に振り回されているような気がする。

食に向き合うことは、自分自身それだけの問題としても難しいものだった。

うまく食べることができない自分が、ものを食べていてよいのか、食べる価値などないのではと思うこともあった。

それは、食べることを行き場のない感情の捌け口として使ったり、食べることで私という存在の市場価値がますます失われていくのではないかという恐れからくるものだった。

 

だが、それまでの罪悪感とはまた別の新たな罪悪感がここ最近生まれることとなった。

 

肉を食べることへの罪悪感である。

 

 

 

現在、世界中に展開されているファストフード業界の収益は、5700億ドルを超え、一部国家の経済規模を超えるものである(1)。

運輸関係よりも畜産業の方がより多く地球温暖化の原因となる温室効果ガスを発生させており(2)、畜産業は水の使用も著しい。

アメリカ国内で化石燃料の水圧破砕には4000億リットルの水資源を利用するのに対し、畜産業は2005年時点でも130超リットルの水を必要としていた(3)。

畜産物は、飼育の過程で大量の穀物が消費されることから、畜産物を飼育する過程で鶏肉1kgに4500リットル、豚肉1kgに6000リットル、牛肉1kgに2万リットルの水が必要と計算される(4)。

ファストフードの代表格でもあるハンバーガーを生産するために必要な水は2400リットルと言われ(5)、これは2ヶ月間シャワーを出し続ける水の量だという(6)。

 

私たちは食肉によって、想像以上の水を消費している。

 

仮想水(バーチャルウォーター)という概念がある。

ある製品が作られる過程において必要な水のことであり、ある国が、ある農畜産物や工業製品、木材等を自国で生産するとしたら、どれほどの水が必要かを計算した数値でもある(7)。

食料自給率が40%を下回る日本は、食料を外国から輸入・依存しているだけにとどまらず、多くの水をも輸入している。

畜産物は、その生産過程に穀物も多く必要とするので、結果的に前述した通り大量の水が消費される。

 

家畜の糞も、当然莫大な量となる。畜産業が、海の環境を汚染し酸欠海域を生み出しているとも言われている(8)。

 

食肉を続けることを考えるならば、動物の痛みや倫理から外れた飼育方法だけではなく、その背景にある地球の資源について考えなければならない。

そんなことに、私は学ぶまで気づけなかった。

 

たった一食の、安価で手軽に食べられる美味しい食物が、今現在の地球環境も、今後の地球環境をも汚染していることを知った時、人間の際限のない欲求を非難するよりも、その危機感と無知による罪悪感を感じずにはいられなかった。 

 

畜産業が地球環境に悪いという話は、授業を受ける前にもなんとなく聞いたことがあったような気がする。

しかしながら、それがどれほどの影響を持っているかを私はよく知らなかった。

いくつかのデータを見聞きして、個人にとっても、社会全体にとっても、そして今後の未来にとっても、差し迫った問題であり、かつ同時に一刻も早く大規模に向き合わなければならないのは食肉と畜産業だと思うようになっている。

 

 

未来の社会の担い手からすれば、人々の食肉がこんなにも地球環境に負荷をかけているとするならば、すぐさま止めてほしいと思うだろう。

ただ、今すぐにそれを一斉に止めてしまえば、経済効果を生み出せずに、明日食べるにも困ってしまう人が続出してしまったり、利益が見込めなくなってしまうことを恐れる個人や団体も多くいる。だから、誰もそこに踏み出すことができなくなっている。

 

食肉、畜産に大きく関わるステークホルダー(利害関係者)の主張の背景には、積み重ねた歴史がある。

それを忘れて課題解決をしようと思えど、長期的な解決には進んでいかないだろう。

また、今すぐに肉を食べるなとだけ言っても、ほとんど誰にも行動の変革は起きないだろう。

では、どうしたら変革につながていけるだろうか。
正解ではないかもしれないが、少しだけ考えてみたい。

 

 

 

中核地域が労働を商品化し、その商品化された労働によって生み出される商品こその経済的価値をつけていくこれまでの資本主義が、商品化の限界を生み出し、労働と食料のバランスを変えてしまった。

その結果、中心部の誰も今以上に損をしたくないという願望と、資本を持つものの富を得るための奮闘が続いてしまっている。

私は、現在の畜産や食肉の状況をすぐに変えられない理由に、こうした史的システムとしての資本主義が横たわっていることがあると思えて仕方がない。

賃金を産まない労働には価値がない。ならば、経済発展のためには賃金を産む労働を作り出さなければいけない。

 

農業は、今やそのような意図に取り込まれた営みでもある。

土地と食品は、そのために値段がつけられ、今では完全な商品となってしまった。コモンズとしての概念は、中核地域ではほとんど忘れ去られてしまっている。

たとえばアメリカにおいて、新たな養鶏場を立ち上げるために50万ドル以上がかかるものの、利益は1万8000ドルしかないことが算出されている(9)。

この状況で、人々が農業を自分の力で続けていくことは困難を極める。

家族経営だけではやっていられない。

畜産農家も、お金が生み出せるような畜産手段を用いたり、大企業との契約、職業・食肉団体への加入をしていくのは理解もできる。

 

食や土地の商品化が進む限り、この状況は打破できないのではないかと思えてならない。

自治の意識を取り戻さなければ、食料に対しても、地球環境に対しても、一人ひとりが行動を変えていくことにはならない。

 

食肉を抑えていくために、水資源をより身近に感じられるようになにをしていけばいいのかはまだはっきりと私にはわからないが、食から自治の意識を取り戻すためには、どこかで食の商品化から離れる瞬間や場があったほうがいいのではないかと思わされる。

 

夢物語であり、財源が確保できるかはわからないと言われるかもしれないが、資本主義の中に取り込まれていった食を、そこから引き離すことができれば、そもそも資本主義で生き残れるような、利益のための畜産農業を行うことからも人間は手を引けるだろう。


そうすれば、家畜とされた動物の痛みを減少させられるかもしれないし、地球環境を大いに壊す大規模なビジネスを少しずつ壊し、自然の一部としての人間の食の営みを改めてデザインできる。

自治の意識を取り戻し、環境を未来のために引き継いでいく視点を養っていけるかもしれない。

今の世界では非現実的かもしれないが、熟慮の上で実現する価値はあると思う。

 

というか、それ以外でいかに水と食肉の問題を多くの人に考えられるようにし、今後のための行動変革につながるアイデアがあるのか今は本当にわからない。

 

昔から習慣として当然のごとく受け入れてきた人々にとって、食習慣の一部を変えるというのは容易いことではない。私にもそうだ。

食肉それ自体を行う人を非難したいわけではない。

ただ、食肉・畜産業の過程で想像しえないほどの地球資源の消費があると知ったからには、もっと何かできることがあるのではないかと思わざるを得なかった。

 

 

 

 

参考文献

(1) ファストフード. History 101: 古今東西の”ナゼ?”を早わかり. 2020, Netflix.

(2) United Nations. “Rearing cattle produces more greenhouse gases than driving cars, UN report warns.” 2006-11-29. https://news.un.org/en/story/2006/11/201222-rearing-cattle-produces-more-greenhouse-gases-driving-cars-un-report-warns, (参照 2021-07-26)

(3) キップ・アンデルセン, キーガン・カーン. Cowspiracy: サステイナビリティ(持続可能性)の秘密. 2014, Netflix.

(4) 沖 大幹. 1.3 畜産や工業生産とvirtual water. 『世界の水危機、日本の水問題』. 2002-07-18. http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/Info/Press200207/, (参照 2021-07-27)

(5) The Food and Agriculture Organization (FAO). “FAO at the World Water Forum | World Water Day.” http://www.fao.org/news/story/en/item/10580/icode/, (参照 2021-07-26)

(6) アンデルセン, 前掲.

(7) 三菱商事. 日本は意外な「水輸入大国」――仮想水貿易でわかる水問題のグローバル化. The Asahi Shimbun GLOBE+. 2018-07-13. http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/Info/Press200207/, (参照 2021-08-01)

(8) Anne Minard, “遺伝子組み換えブタ、海の生物を救う?". National Geographic. https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/2488/, (参照 2021-07-26)

9) ジェニファー・コックラル=キング, 白井和宏 訳. 『シティ・ファーマー:世界の都市で始まる食料自給革命』. 白水社, 2014. p.65